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高松家庭裁判所丸亀支部 平成元年(少)157号 決定 1989年8月21日

少年 A(昭○.○.○生)

主文

少年を教護院に送致する。本件のうち強制的措置許可申請事件を香川県児童相談所長に送致する。少年に対し、平成元年8月21日から平成3年3月31日までの間に、通算180日を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(非行事実)

少年は、平成元年7月7日午後5時30分ころ、香川県善通寺市○○町×丁目×番××号○○うどん店南側路地において、窃盗犯人が置き去りにしたB所有にかかる赤色ミニ自転車1台(時価3000円相当)を発見拾得しながら、警察に届け出るなど正規の手続きをとらず、即時同所において、自己の乗用に供する目的で、ほしいままにこれを着服して横領したものである。

(法令の適用)

刑法254条、少年法3条1項2号

(強制的措置許可申請の要旨)

少年は、昭和63年12月9日から教護院である香川県立a学園に措置入所中であるが、職員の指示に従えず、無断外出を繰り返しては窃盗、恐喝、無免許運転等の非行を重ね、平成元年1月16日に無断外出して後は帰園を拒み、不良交遊の中で更に上記と同様の非行を続けており、同学園における教護指導は限界に達したから、少年に対し、180日を限度として強制的措置をとることの許可を求める。

(処遇の理由及び強制的措置許可申請に対する判断)

1  少年は、その幼児期から両親間の不和葛藤が続き、十分な愛情を受けることができないまま生育したため、親子間の情緒的な信頼関係が形成されず、既に少学校5年生のころから級友や両親に対する暴力、暴言等の問題行動をとるようになり、中学校入学後は更に窃盗、恐喝等の非行を繰り返し、その間児童相談所において継続指導を受けたものの改善されなかったため、昭和63年12月9日、教護院である香川県立a学園に措置入所した。ところが、少年は、同学園内においても落ち着くことができず、職員の指示に従わず、無断外出を繰り返しては窃盗を中心とした非行を続け、平成元年1月16日に無断外出して後は帰園を拒み、その後一応家庭に戻ったが、更に上記と同様の非行を続けるとともに、家庭においては、母親に対したびたび暴力を振い、また、居住アパートの部屋を損壊する等の行為を繰り返したため、本件強制的措置許可申請がなされるに至ったものである。

ところで、上記事件の第1回審判期日において、少年は、今後は母親の注意をよく聞き、真面目になり二度と悪いことはしない旨を述べ、他方、少年の母親も、自信は持てない旨述べるものの、少年を引き取って指導監督する意欲を示したため、その当時少年と母親2人で曲がりなりにも一応の生活を営んでいたこと、また、少年の非行自体も落ち着く兆があったこと等を考慮し、親子関係の改善をはかることができれば、少年の非行が終息に向かうものと思料されたことから、当裁判所としては、少年を在宅試験観察に付してその努力に期待したところであるが、少年は、試験観察決定後も生活態度を改善することができず、裁判所の調査呼出しにも一度応じたのみで、試験観察上の遵守事項を遵守せず、本件非行(遺失物横領)のほか、シンナー吸引、居住アパートの器物損壊、母親に対する暴力を繰り返し、その非行はもはや習癖化した段階に至り、これに対応して、前記のとおり第1回審判期日においては一応指導監督の意欲を示していた少年の母親も、現段階においては、少年の引き取りを拒否し、裁判所からの連絡にも応じない状況にあり、離婚した少年の父親も直ちに少年を引き取って指導監督することは困難な状況にある。

そこで、以上のような本件に至った背景、試験観察の経過、現段階における少年の保護状況、並びに調査、鑑別の結果明らかとなった少年の性格、資質、即ち、知能は中の下の段階にあるが、社会的に未熟で自己中心性が強く、母親に対する甘えと依存心が強いこと等を総合考慮すると、今後在宅保護によって少年の更生を期待することは困難というべきであり、この際、少年を教護院に収容することにより、今後における少年の健全な育成を期するのが相当と思料する。

2  次に、本件強制的措置許可申請の当否について検討するに、少年の更生をはかるについての最大の問題点は、前記のとおり、親子間の情緒的な信頼関係を回復することにあると考えられるが、この観点からすると、少年と母親ないし父親との面会の便宜も考慮して、少年をその居住地に所在する教護院である香川県立a学園に再入所させるべく、強制的措置を許可しないこととすることも考えられなくもないが、前記のとおり少年の非行は習癖化した段階にあり、同人を同学園に戻しても再び無断外出を繰り返し再非行に至る恐れが大きいと認められること、少年の両親は、現段階においては少年の引き取りを拒否し、むしろ同人を国立b学院へ入所させることを希望していること、児童相談所においても、今後少年を継続して指導してゆくことについては消極的であること等を総合考慮すると、今後同人を通常の教護院の開放的施設で処遇することは困難であり、強制的措置をとることができる教護院において指導することが必要であると思料する。

そこで、更に強制的措置をとりうる期間について検討するに、強制的措置許可申請事件については、同措置をとりうる終期を明確にするため期限を付し、更にその中で通算してとりうる日数を定めるのが相当と思料されるところ、少年の年齢、資質等から見て、今後の指導に要する期間は流動的ではあるが、同人が中学校を卒業する時期を1つの基準とすることとし、強制的措置をとりうる期限として、本決定から平成3年3月31日までの間に通算して180日を限度とすることが相当と思料する。

よって、平成元年少第488号触法(遺失物横領)保護事件につき、少年法24条1項2号を適用して、保護処分として少年を教護院に送致し、同年少第157号強制的措置許可申請事件につき、同法23条1項、18条2項を適用して、主文のとおり少年に対し強制的措置を許可し、同事件を香川県児童相談所長に送致することとする。

3  なお、上記決定についての法律上の問題点について付言する。

一件記録によると、本件においては、通常の教護院に措置入所中の少年について強制的措置許可申請がなされ、同事件の第1回審判期日において当裁判所が同人を在宅試験観察に付し、試験観察中であったところ、その間に児童相談所において少年の措置解除を行ったことが認められるところ、少年法、児童福祉法その他の法律上強制的措置をとりうる児童を教護院入所中あるいは入所予定の児童に限った規定はなく、また、試験観察中に少年につき措置解除がなされたからといって、このような児童福祉法上の措置如何によって先になされた強制的措置許可申請の効力が当然に失われるとも考えられないから、本件強制的措置許可申請事件につき直ちに少年に対し同措置を許可することも一応可能と解されるが、既に児童相談所により措置解除がなされ、形式上その手を離れた少年に対し、同事件のみにより直ちに強制的措置を許可することは妥当でないというべきである。

そこで、当裁判所としては、試験観察中に児童相談所長から児童福祉法27条1項4号の規定に基づき送致された触法(遺失物横領)保護事件により、保護処分として少年を教護院に送致し、これに併せて改めて強制的措置許可申請事件につき、同人に対し強制的措置を許可したものである。もとより、本件において、触法(遺失物横領)保護事件と強制的措置許可申請事件とは別個の事件であり、また一般論として、少年法24条1項2号により保護処分として教護院送致決定を行った場合において、強制的措置許可申請がないまま直ちに同措置を許可できるかどうかについては法律上疑いがあるが、既に見たとおり、本件においては、先に強制的措置許可申請事件が当裁判所に係属しており、児童相談所においても、後日送致した触法(遺失物横領)保護事件の送致に際し、また、本件の最終審判期日においても、少年については教護院送致決定に併せて強制的措置の許可を求める旨を表明しているから、前記のとおり、触法(遺失物横領)保護事件により少年を教護院に送致し、これに併せて強制的措置許可申請事件につき同人に対し同措置を許可することも許されると考え、主文のとおり決定した次第である。

(裁判官 高橋善久)

〔参考1〕送致書<省略>

〔参考2〕経過一覧

年月日 経過

63.12.9 香川県立a学園措置入所

元.3.10 強制的措置許可申請(157号事件)

4.21 観護措置決定(157号事件関係)

5.12 審判期日、試験観察決定、観護措置取消し(157号事件関係)

5.13 教護院入所措置解除

7.26 触法事件送致(児童福祉法27条1項4号、488号事件関係)

7.28 観護措置決定(488号事件関係)

8.21 審判期日、157号事件と488号事件は併合せず、157号事件で強制的措置許可、488号事件で教護院送致決定

8.22 国立b学院入所

年月日 経過

63.12.9香川県立a学園措置入所

元.3.10強制的措置許可申請(157号事件)

4.21観護措置決定(157号事件関係)

5.12審判期日、試験観察決定、観護措置取消し(157号事件関係)

5.13教護院入所措置解除

7.26触法事件送致(児童福祉法27条1項4号、488号事件関係)

7.28観護措置決定(488号事件関係)

8.21審判期日、157号事件と488号事件は併合せず、157号事件で強制的措置許可、488号事件で教護院送致決定

8.22国立b学院入所

年月日 経過

63.12.9 香川県立a学園措置入所

元.3.10 強制的措置許可申請(157号事件)

4.21 観護措置決定(157号事件関係)

5.12 審判期日、試験観察決定、観護措置取消し(157号事件関係)

5.13 教護院入所措置解除

7.26 触法事件送致(児童福祉法27条1項4号、488号事件関係)

7.28 観護措置決定(488号事件関係)

8.21 審判期日、157号事件と488号事件は併合せず、157号事件で強制的措置許可、488号事件で教護院送致決定

8.22 国立b学院入所

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